成長投資拡大による価値創造が求められています
2026.07.10

FIFAワールドカップ2026、日本代表はノックアウトステージに勝ち上がりましたが、過去5回の優勝歴を誇るブラジルに敗れベスト16入りを逃しました。今回の大会、主力選手のけがが相次ぐ中、若手が台頭し活躍したことが印象に残りました。次回はスペイン、ポルトガル、モロッコを中心に6か国で行われる100周年記念大会、頂点を目指した戦いを期待しています。
さて今年4月以降、金融庁、東京証券取引所からコーポレートガバナンス・コード(以下CG)の改定案、経済産業省からは「成長投資ガイダンス(案)―価値創造の拡大を通じた企業の持続的成長に向けて―(以下ガイダンス)」が相次いで発表されています。
前者のCGは2015年に適用が開始され、2018年、2021年に改定がなされ、今回は3度目の改定です。改定案では、「成長投資等の経営資源の適切な配分をはじめとして、企業が中長期的な価値向上に向けた取り組みに注力」することを求め、(1)成長投資の促進、(2)取締役会の機能強化、(3)有価証券報告書の定時株主総会前の開示の3点を留意事項として掲げています。
特に興味を引くのは、(1)の成長投資の促進です。そのための取締役会の役割・責務として、「成長投資の道筋を構築」し、その実現に向けての成長投資(設備・研究開発・人的投資・知的財産等の無形資産への投資等)へ事業ポートフォリオを見直すこと、現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源の配分が経営戦略や経営計画に照らして適切なものになっているかを不断に検証すべきとしています。
また、(2)取締役会の機能強化では、独立社外取締役の役割・責務、質・量の確保、独立性確保の重要性が強調され、取締役を支援する重要な役割を果たす事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化を推進すべきとしています。(3)の有価証券報告書の定時総会前の開示では、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが望ましく、株主総会開催時期の後ろ倒しも含めて検討することが考えられると補足されています。この改定に関して、上場企業は遅くとも2027年7月までに改定コードに関する事項について記載したCG報告書の提出が求められます。
後者のガイダンスは、「CGの基本的な考え方を前提として企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上」を具体化することを目的とするとしています。
問題意識は、業績・株価の上昇、資本効率の改善、株主還元が進む中で、その成果が成長投資の拡大や持続的な賃金上昇に必ずしも十分に結びついていない。課題として、(1)成長投資が欧米企業と比較して相対的に低く、(2)成長ステージに応じた成長投資と株主還元の適切なバランスが取れていない、(3)価値毀損セグメントに資本が滞留しているなどが挙げられています。短期的に資本効率や株主還元の水準を高めることではなく、「企業が生み出す経済的付加価値の総量を中長期的に持続して拡大していくことである」とし、資本コストを上回るリターン(経済的付加価値)として「エコノミック・プロフィット(以下EP:Economic Profit)=価値創造」の概念を提唱、EPの考えを以下のような式で示しています。
EP=税引後営業利益(NOPAT)-(加重平均資本コスト(WACC)×投下資本)
=投下資本×(投下資本利益率(ROIC)-加重平均資本コスト(WACC))
このEPの中長期的拡大のために、(1)「成長の道筋」の構築・説明、(2)商品・サービスの付加価値向上を通じた収益性の向上、(3)事業譲渡、M&A等も考慮したベストオーナー制原則に基づく事業ポートフォリオ転換の推進、(4)設備投資、研究開発投資、人的投資等の大胆な成長投資の拡大、(5)成長投資と株主還元の適切なバランスの確保等が必要であるとしています。
CG、ガイダンスに共通する点は、成長投資や株主還元を含めて経営資源の配分を検討し、成長のための投資を実行すべきという考えです。特に、ガイダンスでは、株主還元を優先することなく、資本コストを上回るリターンをあげられる分野に大胆に投資をすべきとしています。
ちなみに、ガイダンスにあるEP式の投下資本利益率(ROIC)と加重平均資本コスト(WACC)の関係で企業の株価パフォーマンスを見てみました。業種によって投下資本が大きく異なりますので、ここではTOPIX対象企業から製造業のみを対象としています。ROICは直近3期の平均、WACCは便宜上直近期の数字を用いています。
EPの式からは、ROIC>WACCの企業は企業価値を拡大、逆の場合は企業価値を毀損していることになりますので、前者の企業の株価は上昇するはずです。ただ、2023年4月から2025年9月ごろまではROIC>WACCの企業群が良好なパフォーマンスを示していましたが、以降は逆になり、特に2026年に入ってからはROIC<WACC企業群のパフォーマンスが上回っています。これは、投下資本の重い素材、重工業企業の株価が大きく上昇したためです。
この2026年に入ってからの現象を一時的ととらえるのかは少し検討が必要ですが、企業への中長期投資の視点からは、企業価値を拡大するために資本コストを上回るリターンを上げる成長投資を不断に実施する企業を見つけることが王道と考えます。
(6月30日記 山中 信久)
(図表)投下資本利益率(ROIC)と加重平均資本コスト(WACC)の関係と株価パフォーマンス

(注1)母集団はTOPIX採用銘柄の製造業から、直近3期間の財務データおよび2023年4月第1週からの株価が取得可能な企業697社。株価は6月22日現在
(注2)

*営業利益が非公表の企業は経常利益(または税引前利益)。税率は一律40%で計算
(出所)Astra Managerのデータを基にいちよし経済研究所作成
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