成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2018年1月号巻頭言
ROA(総資産利益率)をみてみよう

更新日 2018年01月12日

新年明けましておめでとうございます。
今年の干支は「戌(いぬ)」、十干十二支では「戊(つちのえ)戌」です。「戌」は、本来は「滅」という字で、作物を刃物で刈り取りひとまとめにする、または草木が枯れる状態を表すといわれています。
相場の格言では、2018年は「戌笑い」となり上昇相場の年とされています。1949年の東京証券取引所(以下東証)再開後の「戌」年相場は5回あり、年間騰落率で上昇が4回、下落が1回、平均上昇率は9.8%です。相場の格言通りに、今年も株価の上昇を期待したいものです。

足元の経済をみると、国内総生産(GDP)は2017年7~9月期に前期比年率2.5%のプラスになりました。タクシーの運転手、コンビニの店長などのヒアリングに基づく街角景気(景気ウォッチャー調査)も、9月、10月と「良い」「悪い」の基準となる50を超えています。日経平均株価指数との相関が高い鉱工業生産指数も2016年7~9月から回復基調にあります。アジアを中心とした新興国の経済が回復し日本からの輸出が拡大、民間設備投資も堅調に推移していることがその背景にあると考えられます。
景気循環をみると、回復期間は2012年12月を底にして2017年9月で58カ月となり、戦後2番目の長さだったいざなぎ景気時の57カ月を抜いたと考えられています。景気循環の山谷の判断は、景気動向指数検討会の判断を待たなければいけませんが、10月以降も日本経済が悪化した兆しはないことから、2017年12月で回復期間は61カ月に達していることになります。ちなみに、戦後最長の景気回復は2002年2月から2008年2月までの73カ月でした。

足元の日本経済の拡大を背景に、企業業績も好調です。2017年度第2四半期決算発表時の通期会社計画を集計すると、東証1部の主要企業で構成されるTOPIX500(除く金融)ベース(注)で前期比4%増収、11%経常増益、アナリスト予想を集計したQuickコンセンサスでは同5%増収、16%経常増益です(12月22日現在)。2012年度から6期連続の増益と見込まれ、前期に引き続きピーク利益更新が予想されています。Quickコンセンサスでは来2018年度も前期比3%増収、9%経常増益予想となっており、来期も経常増益が続くと戦後初めての7期連続増益となります。
業種的には、各国の設備投資が拡大していること、半導体関連の需要が増大を続けていることから機械、電気機器関連企業が好調で、2017年度は前期比30%前後の経常増益、2018年度も10%半ばの経常増益が見込まれています。また、アジア各国の需要拡大を受けて素材価格が上昇しており、素材関連企業の業績は2017年度は前期比30%近い経常増益、2018年度も10%弱の増益予想と予想されています。
(注)TOPIX500に採用された企業から金融、決算期変更などを除く412社

これを受けて、株式市場も9月中旬以降から上昇に転じ、日経平均株価指数は12月25日に直近高値の22,939円(終値ベース)を付け、東証1部上場全社の株価を示すTOPIXも1,831となり、同じく直近高値を更新しました。直近の両者の高値は、日経平均株価指数では1992年1月以来、TOPIXでは1991年11月以来の水準です。

このような中で働き方改革が叫ばれ、生産性の向上に関する議論が盛んに行われています。2018年も日本企業にとってこの問題は最重要課題の一つです。
日本企業の収益性は以前から欧米企業に比べて低位にとどまっており、特にROE(自己資本利益率:Return on Equity)の引き上げが言われ続けています。2017年6月に公表された安倍政権の成長戦略「未来投資戦略2017年」では、新たにROA(総資産利益率:Return on Asset)の改善が目標に加わりました。ROEは株主に帰属する最終利益である純利益(株主に帰属する当期純利益)を株主資本(≒自己資本)で除したもので、基本的には株主に対するリターンを示します。ROAは債権、設備、投資など、企業活動を行う際の総資産から生み出される収益を、投じられた総資産で除したものです(文末の参考図表1)。2017年9月号で述べたように、ROE、ROAともに日本の主要企業の平均は、アメリカの主要企業に比べて見劣りします。
図表1には、日本国内で事業を営む企業の財務データを集計した法人企業統計からROEとROAの推移を示しました。なお、業種構成による変化を除くため製造業のみのデータです。ROEは着実に改善をしてきていますが、ROAの改善度合いは鈍く2013年度以降6%台前半にとどまっています。ROAという資産の生産性の面からは、停滞していると言えます。

(図表1)法人企業統計にみるROAの推移 (注1) 法人企業統計の内製造業
(注2) 法人企業統計では受取利息・配当金が取得できないため、ROAは簡便的に以下の式を用いている。
            ROA=(営業利益+営業外収益)÷資産(期中平均)
(出所)Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所

ところで、ROAの改善を株式市場はどのように反映しているかも見てみました。東証上場の主要企業で構成されるTOPIX500(除く金融)から製造業を母集団に、1981年度から継続して財務データが取得できる130社について、いくつかの時期に区切ってROAと株価の動向を比較しました。図表2には、リーマンショック前、企業業績がピークを付けた2007年度と直近のピークである2016年度の2時点のROA改善度と同年度末の株価変化率をプロットしています。これをみると、ROAの改善と株価変化率には一定の相関関係がみられます。同様なことをROEでもやってみましたが、相関関係ははるかにROAのほうが高いことがわかりました。
また、130社をROAの改善度が高い順に5グループ化して、各グループの株価変化率を見ると、各期間でROAの改善度と株価変化率にはそれなりの相関関係があることが読み取れます(文末の参考図表2)。ちなみに2007年度と2016年度との比較で、ROA改善度の上位5社は順に科研製薬、SUBARU、塩野義製薬、東ソー、SCREENホールディングスでした。株価は、順に4.2倍、9.7倍、3.3倍、2.8倍、3.9倍になっています。

(図表2)ROAと株価の関係 (注1) 母集団はTOPIX500採用企業の内の製造業。1981年度から継続して財務データが取得可能な130社
(注2) ROAの式は、法人企業統計と同様に簡便的に営業利益に営業外収益を加えたものを用いている
            ROA=(営業利益+営業外収益)÷資産(期中)
(出所)Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所

昨2017年秋口以降の株価上昇により、多くの企業の株価水準が引き上げられ、高パフォーマンスが期待できる銘柄の発掘が難しくなっています。株式市場全体での株価収益率(PER)は今2017年度予想基準で17倍、来2018年度予想基準で15倍なので、割高感はありません。海外の機関投資家も再度日本株に目を向けているようです。
リスクは急激な円高による企業業績の悪化や北朝鮮などの地政学的なものが挙げられますが、新年にあたり資産効率の改善に注力している企業に目を向けるのも一つのアイデアではないでしょうか。

(2017年12月25日記 山中 信久)

(参考図表1)ROAとROEの式 (参考図表2) 5分位によるROAの改善度と株価変化率 (注1) 母集団はTOPIX500採用企業の内の製造業。1981年度から財務データが継続して取得可能な130社
(注2) ROAの式は、法人企業統計と同様に簡便的に営業利益に営業外収益を加えたものを用いている。
            ROA=(営業利益+営業外収益)÷資産(期中)
(注3) 株価変化率は各年度末の修正株価の比較
(出所) Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所

ご留意いただきたい事項

  • この資料は情報提供を目的として作成されたものです。投資勧誘を目的としたものではありません。そのため証券取引所や証券金融会社が発表する信用取引に関する規制措置等については記載しておりません。
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