成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2018年11月号巻頭言
こんな時は木を見よう

更新日 2018年11月12日

 ようやく秋晴れが続く季節になりましたが、株式市場は9月までの好天から一転して荒れ模様となっています。日経平均株価は、9月7日にボックス相場の底を打ち、10月2日の24,000円台まで一気に上昇、1991年11月水準まで回復しました。ところが、ニューヨーク市場の下落を受けて一転、21,000円台まで急降下し、今年春先の水準まで戻っています。9月7日から10月2日まで9%上昇し、10月29日までに13%下落した計算になります。10月30日、31日の二日で770円ほど戻しましたが、しばらくは様子見の状態が続きそうです。

  市場の調整の背景には、アメリカと中国との貿易摩擦の激化、サウジアラビア人ジャーナリスト殺害によるアメリカとサウジアラビアとの関係悪化、イギリスの欧州連合(EU)からの「合意なし離脱」懸念などがあるようです。しかし、最終的に株価は将来の企業収益と期待収益率のもととなる金利水準で決まる以上、企業収益に影響する経済の動向、金利の方向性を考えることが重要と考えます。
 経済に関しては、10月9日に国際通貨基金(IMF)が世界経済見通しを発表しました。2018年の経済成長率を3.7%、2019年も同じく3.7%とし、7月時点から各々0.2%ポイントの下方修正です。途上国の修正が目立ちますが、ドイツ、フランスが下方修正されています。アメリカ・トランプ大統領の保護貿易政策を受けた中国経済は、IMFの見通しでは2019年は0.2%ポイントの下方修正です。中国経済の減速は、日本企業の収益に大きな影響を与えます。
 ただし、注意しておきたいのは、景気は「減速」しているものの、「後退」をしているわけではないということです。アメリカ経済は依然として順調ですし、日本経済も堅調です。日本経済研究センターが発表するエコノミスト39人による日本経済の実質GDP成長率予測では、2018年度1.2%、2019年度は消費税引上げを織り込んでも0.8%となっています。

 金利の方向性に関しては、アメリカはすでに金融緩和を終了し政策金利の引上げ局面に入っています。連邦準備制度理事会(FRB)は、FOMC(連邦公開市場委員会)で今年すでに3回のFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標値の引上げを実施、年内にもう一回、さらに2019年には3回の引上げが予想されています。欧州では、欧州中央銀行(ECB)が10月25日の理事会で、予定通り資産購入を年内で終了することを決定、政策金利に関しては据え置くこととしています。日本は、黒田日本銀行総裁のもと金融緩和が続いています。日銀は、10月31日の金融政策決定会合で、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する金融緩和政策を維持することを決めました。世界全体でみると、2008年の金融危機以降続いていた量的緩和は終了し、新たなステージに入ったとみるべきなのでしょう。

 株式市場は不安定な動きとなっていますが、日本企業の収益はしっかりとしています。足元、2018年度上期(4~9月)決算発表の真っ最中です。10月31日現在での日経QUICKの集計によると、2018年度通期の会社業績計画集計(除く金融)は前期比3%増収、1.7%営業増益、1.0%経常増益となっています。半導体関連企業の業績下方修正が多く見受けられますが、鉄鋼、卸関連企業の業績は堅調です。為替前提も105円から110円に集中しており、現状の円ドルレートであれば大きな懸念はないと考えます。
 上場企業の体質強化も進んでいます。図表には1985年から継続して財務データが取得可能な企業229社の収益性、安全性指標の推移を示しました。業種構成による変動要因を除くため、集計は製造業のみとなっています。これをみると、収益性を示す売上高経常利益率、さらに設備投資に伴う減価償却費、企業買収によって発生するのれん償却を足し戻した売上高EBIDA比率ともに1985年度以降の最高水準にあります。ROEも10%を超えています。安全性を示す自己資本比率も45%近くまで改善です。2018年度の増収率、増益率は前期に比べて大幅な鈍化が予想されるので、成長性に関しては弱いと言わざるをえませんが、日本企業の着実な収益力向上が見て取れます。

 また、足元の調整局面でも株価が上昇している企業があります。10月2日の日経平均株価の高値から安値を付けた10月29日までの間に、市場とは逆に株価が5%以上上昇した企業は57社ありました。仕手株的な動きを示している企業もありますが、総じて今期業績が好調で、ROEも高い企業が多いという印象です。ちなみにこの57社の、今期会社計画の経常利益は平均で前期比11%増益、前期実績ROEも平均で13%でした。なお、株価が乱高下しやすい銘柄を除くために、全上場企業から、年初に時価総額100億円以上ないしは1日当たり売買代金(25日移動平均)が1億円以上からスクリーニングをしています。
 いくつか例を挙げると、ウェストホールディングスは、太陽光発電システムの施行から発展し、自らメガソーラー事業を立ち上げたほか、電力小売事業へも展開し安定した成長が期待されています。シーズ・ホールディングスは、医師が製品開発に関与したドクターズコスメで業績を拡大、インバウンド需要も取り込んでいます。Gunosyはスマートフォン向けアプリを通じて、ニュースサイトやブログなどの情報を配信して高成長をしています。
 株式市場は不安定な動きが続くことが考えられますが、成長魅力の高い企業は結構あります。このようは企業を見つけるには良いタイミングかと思います。 

(2018年10月31日記 山中 信久)

 (図表)上場製造業の財務指標は着実に改善(注)東京証券取引1部上場企業から、1985年度以降継続して財務データが取得可能な企業229社。
(出所) Astra Managerの財務データからいちよし経済研究所作成

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