2019年春号巻頭言
平成のテンバガーから考える
更新日 2019年04月10日
4月1日、菅官房長官から新しい元号「令和」が発表されました。「万葉集」に収められている大伴旅人の歌の序から摂られているとのことです。
平成は4月30日で終わることになりますが、この平成の30年を総括した書籍、雑誌を数多く見かけるようになりました。「平成はなぜ失敗したのか」(一橋大学名誉教授野口悠紀雄著)、日経ビジネス電子版(3月29日)「挫折の30年、まず認めよう」(小林喜光経済同友会代表幹事)にみられるように、平成は厳しい時代であったとの論調が多いようです。
確かに、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災、同23年(2011年)の東日本大震災と未曾有の震災に見舞われ、地下鉄サリン事件(平成7年(1995年))も起こりました。
経済・金融でみても、平成7年(1995年)のコスモ信用組合、兵庫銀行、木津信用組合の経営破綻、同9年(1997年)の北海道拓殖銀行破綻、山一證券自主廃業がありました。中国の台頭もあり、日本の国際競争力が大きく落ち込んだのも平成になってからの問題です。
明るい話題と言えばノーベル賞受賞者が増えたことでしょうか。昭和では7名だった受賞者が、外国籍を取得されている方も含めて平成では20名となりました。特に、科学分野で多くの賞を得たことが日本の基礎研究水準の高さを示すと言われました。
株式市場に目を転じると、平成2年(1990年)からは株価は急落に転じバブルがはじけました。平成が始まる直前の昭和63年(1988年)末のTOPIXは2,357、日経平均は30,159円であったのに対して、先月3月29日のTOPIXは1,591、日経平均は21,205円ですから、いまだに2/3から70%の水準に留まっています。
しかし、個別企業をみると大きく株価を上昇させた企業も数多くあります。図表には、平成が始まる直前の昭和63年(1988年)末の時価総額に対して、平成31年(2019年)3月29日の時価総額が10倍以上になった企業(テンバガー (注))を示しました。
母集団としたのは、昭和63年末に上場していた上場企業2,100社強から、先月3月29日まで継続して時価総額が取得可能な企業約1,260社です(銀行、証券・商品先物関連企業等を除く)。ホールディングスに移行した企業、合併によって株式コード番号が変更された企業は対象となっていません。また、現在検討されている東証1部市場の上場企業見直しの基準と言われている時価総額250億円未満は外してあります。
業種でみると、IT、バイオベンチャー企業の上場が本格化していないことから、電気機器、機械に代表されるハイテク製造業が中心になっています。
(注)テンバガー(ten bagger)は元々は野球で1試合10塁打を上げること。転じて株価が10倍になった(なりそうな)銘柄を指す。ここでは株価の代わりに企業価値を示す時価総額を使用している。
時価総額が最も大きくなったのはFAセンサーなどの検出・計測制御機器を手掛けるキーエンス(東1、6861)で62倍、2位がHDD用小型精密モーターで世界トップの日本電産(東1、6594)、3位が哺乳瓶などの育児用品で国内最大手のピジョン(東1、7956)となり、化粧品・日用品などの卸最大手のPALTAC(東1、8283)と続きます。
これらの企業は、いずれも売上高、利益を大きく伸ばしていることに加え、売上高経常利益率に代表される利益率も大幅に改善させています。キーエンスはこの間に売上高は36倍、経常利益は47倍となり、売上高経常利益率も38%から54%へ15%ポイントも上昇させています。日本電産も売上高41倍、経常利益63倍となり、売上高経常利益率は6%から11%へ5%ポイント改善、ピジョンは売上高6倍、経常利益34倍、売上高経常利益率で2%強から19%へ16%の改善です。なお、売上高経常利益率は業績変動によるブレを小さくするため、1986~1988年度の3か年平均と2015~2017年度の3か年平均の比較です。
図表には上場日も掲載してあります。21社中9社は昭和62年(1987年)、63年(1988年)、すなわち平成の直前に上場、平成とともに大きくなった企業と言えます。
掲載はしてありませんが、この平成の間の売上高、経常利益の伸び率、売上高経常利益率、ROEなどの財務データの拡大、改善を、上位から5グループに分け、同期間の時価総額倍率をみると、各財務データの上位グループほど時価総額倍率が大きくなっていることが分かります。特に、経常利益の伸び率との相関が強いようです。
新しい元号のスタートとなる2019年度の企業業績は、米中貿易摩擦の影響による中国経済の減速から輸出関連企業を中心に伸び悩みが予想されます。2018年度第3四半期決算終了時のTOPIX500(除く金融)対象企業でみた2019年度のアナリスト・コンセンサス予想は、前期比3%増収、7%経常増益ですが、4月以降に発表される会社側ガイダンスはさらに厳しいものとなることが予想されます。
株価を予想するのはなかなか難しいですが、企業の成長力を見極めることで高パフォーマンスを得ることができます。新しい元号となる2019年度、長期的な視点で企業の成長力を見極め高パフォーマンス銘柄の発掘につなげたいと思います。
(図表)平成の間に時価総額が10倍以上になった企業
(注)母集団は1988年(昭和63年)12月28日に上場していて、2019年(平成31年)3月29日までの間、継続して株価データが取得可能な企業1,258社(銀行、証券・金融先物関連企業、IFRSに移行した総合商社などを除く)。3月29日の時価総額250億円未満1社を除く。1988年12月は12月28日、2019年3月は3月29日。
(出所) Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所
平成は4月30日で終わることになりますが、この平成の30年を総括した書籍、雑誌を数多く見かけるようになりました。「平成はなぜ失敗したのか」(一橋大学名誉教授野口悠紀雄著)、日経ビジネス電子版(3月29日)「挫折の30年、まず認めよう」(小林喜光経済同友会代表幹事)にみられるように、平成は厳しい時代であったとの論調が多いようです。
確かに、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災、同23年(2011年)の東日本大震災と未曾有の震災に見舞われ、地下鉄サリン事件(平成7年(1995年))も起こりました。
経済・金融でみても、平成7年(1995年)のコスモ信用組合、兵庫銀行、木津信用組合の経営破綻、同9年(1997年)の北海道拓殖銀行破綻、山一證券自主廃業がありました。中国の台頭もあり、日本の国際競争力が大きく落ち込んだのも平成になってからの問題です。
明るい話題と言えばノーベル賞受賞者が増えたことでしょうか。昭和では7名だった受賞者が、外国籍を取得されている方も含めて平成では20名となりました。特に、科学分野で多くの賞を得たことが日本の基礎研究水準の高さを示すと言われました。
株式市場に目を転じると、平成2年(1990年)からは株価は急落に転じバブルがはじけました。平成が始まる直前の昭和63年(1988年)末のTOPIXは2,357、日経平均は30,159円であったのに対して、先月3月29日のTOPIXは1,591、日経平均は21,205円ですから、いまだに2/3から70%の水準に留まっています。
しかし、個別企業をみると大きく株価を上昇させた企業も数多くあります。図表には、平成が始まる直前の昭和63年(1988年)末の時価総額に対して、平成31年(2019年)3月29日の時価総額が10倍以上になった企業(テンバガー (注))を示しました。
母集団としたのは、昭和63年末に上場していた上場企業2,100社強から、先月3月29日まで継続して時価総額が取得可能な企業約1,260社です(銀行、証券・商品先物関連企業等を除く)。ホールディングスに移行した企業、合併によって株式コード番号が変更された企業は対象となっていません。また、現在検討されている東証1部市場の上場企業見直しの基準と言われている時価総額250億円未満は外してあります。
業種でみると、IT、バイオベンチャー企業の上場が本格化していないことから、電気機器、機械に代表されるハイテク製造業が中心になっています。
(注)テンバガー(ten bagger)は元々は野球で1試合10塁打を上げること。転じて株価が10倍になった(なりそうな)銘柄を指す。ここでは株価の代わりに企業価値を示す時価総額を使用している。
時価総額が最も大きくなったのはFAセンサーなどの検出・計測制御機器を手掛けるキーエンス(東1、6861)で62倍、2位がHDD用小型精密モーターで世界トップの日本電産(東1、6594)、3位が哺乳瓶などの育児用品で国内最大手のピジョン(東1、7956)となり、化粧品・日用品などの卸最大手のPALTAC(東1、8283)と続きます。
これらの企業は、いずれも売上高、利益を大きく伸ばしていることに加え、売上高経常利益率に代表される利益率も大幅に改善させています。キーエンスはこの間に売上高は36倍、経常利益は47倍となり、売上高経常利益率も38%から54%へ15%ポイントも上昇させています。日本電産も売上高41倍、経常利益63倍となり、売上高経常利益率は6%から11%へ5%ポイント改善、ピジョンは売上高6倍、経常利益34倍、売上高経常利益率で2%強から19%へ16%の改善です。なお、売上高経常利益率は業績変動によるブレを小さくするため、1986~1988年度の3か年平均と2015~2017年度の3か年平均の比較です。
図表には上場日も掲載してあります。21社中9社は昭和62年(1987年)、63年(1988年)、すなわち平成の直前に上場、平成とともに大きくなった企業と言えます。
掲載はしてありませんが、この平成の間の売上高、経常利益の伸び率、売上高経常利益率、ROEなどの財務データの拡大、改善を、上位から5グループに分け、同期間の時価総額倍率をみると、各財務データの上位グループほど時価総額倍率が大きくなっていることが分かります。特に、経常利益の伸び率との相関が強いようです。
新しい元号のスタートとなる2019年度の企業業績は、米中貿易摩擦の影響による中国経済の減速から輸出関連企業を中心に伸び悩みが予想されます。2018年度第3四半期決算終了時のTOPIX500(除く金融)対象企業でみた2019年度のアナリスト・コンセンサス予想は、前期比3%増収、7%経常増益ですが、4月以降に発表される会社側ガイダンスはさらに厳しいものとなることが予想されます。
株価を予想するのはなかなか難しいですが、企業の成長力を見極めることで高パフォーマンスを得ることができます。新しい元号となる2019年度、長期的な視点で企業の成長力を見極め高パフォーマンス銘柄の発掘につなげたいと思います。
(2019年4月1日記 山中 信久)
(図表)平成の間に時価総額が10倍以上になった企業
(注)母集団は1988年(昭和63年)12月28日に上場していて、2019年(平成31年)3月29日までの間、継続して株価データが取得可能な企業1,258社(銀行、証券・金融先物関連企業、IFRSに移行した総合商社などを除く)。3月29日の時価総額250億円未満1社を除く。1988年12月は12月28日、2019年3月は3月29日。
(出所) Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所
ご留意いただきたい事項
- この資料は情報提供を目的として作成されたものです。投資勧誘を目的としたものではありません。そのため証券取引所や証券金融会社が発表する信用取引に関する規制措置等については記載しておりません。
- この資料は信頼しうるデータ等に基づいて作成されたものですが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、将来の株価等を示唆・保証するものでもありません。
- 記載された内容・見解等はすべて作成時点でのものであり、予告なく変更されることがあります。
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