成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2019年夏号巻頭言
日本企業の総資本事業利益率(ROA)

更新日 2019年07月10日

 上場企業の7割を占める3月期決算の発表が終わり、各証券会社から2019年度、2020年度の企業業績予想も出そろいました。東京証券取引所の主要上場企業で構成されるTOPIX500(除く金融)の会社計画を独自に集計すると、2018年度は前期比6%増収、2%経常増益にとどまりました。3月の第3四半期発表時の会社計画に比べると、売上高は2%pts.近く上方修正されたものの、経常利益では1%pts.の下方修正です。会社計画は通常慎重に出されるので、実績の数字が第3四半期発表時の会社計画集計を下回るのは珍しいことです。
 今2019年度はQuickコンセンサスでは2018年度比で2%増収、5%経常増益ですが、会社計画集計では同1%増収、0.5%経常減益となっています。特に半導体関連を中心とした電気機器業界での減益が大きく、製造業では同1%の経常減益計画です。為替前提をみると、円ドルの最頻値は110円ですが、足元の為替は108円(7月1日)なので為替に関しての余力が今年度はありません。
 会社計画集計で気になるのは、上期が前年同期比10%強の経常減益、下期が同10%弱の経常増益となっており、下期からの回復期待に依存していることです。業種別でみても、上期、下期ともに増益を予想しているのはパルプ・紙、小売のみとなっています。

 2019年度企業業績は予断を許しませんが、日本企業の体質は強くなっています。東京証券取引所1部上場企業(除く金融)の財務データを集計すると、2018年度の自己資本比率は2017年度と同水準の41%を維持しています。売上高経常利益率は7.4%と、前年度の7.6%に対し僅かに低下しましたが、2013~2015年度の6%台、2016年度の7.1%からは着実な改善です。
 また、6月29日の日本経済新聞朝刊の記事にもあるように、投資、株主還元に関しても前向きになっています。キャッシュフロー計算書を集計すると、2018年度の営業キャッシュフローは前年度比で7.7%減少しているにもかかわらず、投資キャッシュフローは3.6%の増加です。設備投資により有形固定資産が3.9%増加、投資・その他の資産も3.0%増加しました。
 株主還元にも積極的になっており、年間配当総額は前年度比11%増加し、配当性向は前年度の29%から33%に上昇。自己株式取得も前年度比49%と大幅に増加、配当と自己株式取得を合わせた総株主還元性向は前年度の39%から48%に達しました。

 一方、資産効率をみると改善の余地があるようです。使用した資本(資産)に対してどれだけの収益を上げたかをみる総資本事業利益率をみると、2017年度6.0%に対して2018年度は5.8%に落ち込んでいます。利益の伸びよりも使用総資本の伸びが大きく利益率が低下したことがその原因ですが、総資本回転率もわずかながら低下しています。
 なお、使用総資本事業利益率は、営業活動に使用される資産から上がる営業利益と、金融資産からもたらされる金融収益に、投資有価証券のリターンである持分法利益を合計し分子に、それぞれに対応する資産を合計したものを分母にしたものですが、ここでは簡便法として分子に経常利益、分母には総資産を使用した総資本経常利益率でみています(注参照)。2018年度は、売上高経常利益率が0.2%pts.ダウンしていますが、総資産回転率も2017年度の1.82から1.80とわずかながらですが低下しました。
 株主に対するリターンを示す自己資本利益率(ROE)は2017年度11%に対して9.5%へ低下しましたが、2017年度はトランプ減税の効果で純利益が大きく伸びたことが要因で、2013~2015年度の8%台からは着実に改善しています。しかし、資産効率ではまだ、改善の余地が大きいようです。
 ただし、極めて高い資本利益率を上げている企業もあります。製造設備を有する製造業と有しない非製造業では資産規模に違いがあるため、それぞれの上位5社を示しました。ROAの改善度と株価には相関関係があり、企業業績が不透明な時には資産効率の改善度合いに着目するのも一つの投資アイデアです。

(注)総資本事業利益率(ROA)の式
(2019年7月1日記 山中 信久)

(図表1)ROA、ROE、自己資本比率の推移
(注)母集団は東京証券取引所1部上場(除く金融関連)から2007年度以降継続して財務データが取得可能な1,623社。6月25日決算発表分までの財務データを使用、5月期決算企業は2018.5期と2019.5期の両決算が対象。
(出所) Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所


(図表2)ROAランキング上位5社(製造業、非製造業別)

(注)母集団は東京証券取引所1部上場(除く金融関連)で2017年度、2018年度の財務データが取得可能な1,993社。
(出所) Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所
 

ご留意いただきたい事項

  • この資料は情報提供を目的として作成されたものです。投資勧誘を目的としたものではありません。そのため証券取引所や証券金融会社が発表する信用取引に関する規制措置等については記載しておりません。
  • この資料は信頼しうるデータ等に基づいて作成されたものですが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、将来の株価等を示唆・保証するものでもありません。
  • 記載された内容・見解等はすべて作成時点でのものであり、予告なく変更されることがあります。
  • 有価証券の価格は売買の需給関係のみならず、政治・経済環境や為替水準の変化、発行者の信用状況の変化、大規模災害の発生による市場の混乱等により、変動します。そのため有価証券投資によって損失を被ることがあります。商品や銘柄の選択および投資の時期等の決定は、お客様ご自身でなさるようお願いいたします。
HOME
PAGE TOP