成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2019年秋号巻頭言
こんな時にはグローバルニッチトップ企業(GNT)

更新日 2019年10月10日

 梅雨明けが遅かったせいで今年の夏は短かった気がします。秋の気配が感じられるなか、ラグビーワールドカップ日本大会の 1次リーグ・プール戦も活況に入ってきました。日本は、アイルランド、スコットランド、サモア、ロシアとあたるプール Aです。この原稿を書いている 9月 30日現在で、日本はロシア、優勝候補の一角に挙げられているアイルランドにも勝ち 2勝、勝ち点 9としてプール Aの首位にいます。 10月 5日にサモア戦、 13日にスコットランド戦があり、 10月 19日から始まる決勝トーナメントに進むにはプール Aの上位 2チームに入る必要があります。 TV観戦をしながら、決勝トーナメント進出のベスト 8のみならず、さらにその上にも行けるのではないかと期待しています。
 
 ラグビーワールドカップは盛り上がっていますが、足元の企業業績は厳しい状況となっています。東証 1部上場の主要企業で構成される TOPIX500(除く金融)の 2019年度第 1四半期( 4~ 6月)経常利益は前期比 5%減益でした。一見するとそれほど厳しい数字には見えませんが、ソフトバンクグループが計上したアリババ株式先渡売買契約決済益( 1兆 2,185億円)を除くと同 14%減益です。特に製造業は同 25%の経常減益となっており、ほとんどのセクターで同 10%を超える減益です。アメリカと中国の貿易摩擦に端を発した外需の減速が大きく影響しています。セクターでは半導体需要の鈍化と市況軟化を受けたエレクトロニクス関連、中国、インド、東南アジアなどの販売が減速している自動車関連、世界景気減速を懸念した設備投資抑制で受注が落ち込んでいる機械関連で前年同期比 20%を超える減益となっています。
 第 1四半期発表を終了した時点での 2019年度の会社側企業収益見通しを集計すると、前期比で 1%増収、 2%経常減益となっており、 5月の 2018年度決算発表時に比較して、売上高で 0.4%ポイント、経常利益で 2%ポイント弱の下方修正です。製造業が 4%減益、非製造業は横ばい予想で、製造業がより厳しい見通しです。アナリスト・コンセンサス予想では、同 1%増収、 2%経常増益予想ですが、下期の回復を強く見ているためで、ドイツの景気減速、アメリカの中国に対する第 4弾の関税引き上げによる一段の貿易摩擦の激化と世界的な設備投資減速の懸念があり、 2019年度下期の企業業績は予断を許しません。特に、会社計画の為替前提の最頻値(モード)は円ドル 110円、円ユーロ 125円で、余力がないことも気になります。
 
 さて、このような厳しい企業環境のもと、今年 6月に経済産業省(以下経産省)が「グローバルニッチトップ(以下 GNT)企業の 5年後の現状と課題」を発表しました。経産省は、 2014年 3月に世界で活躍する GNT企業 100社を選定し表彰しましたが、それから 5年が経過したことから選定企業のフォローアップを行ったものです。
 GNT企業 100社は、応募のあった企業から、 (1)世界シェアと利益が両立、 (2)独創性と自立性、 (3)代替リスクへの対処、 (4)世界シェアの持続性に着目し選定されたものです。選定要件としては、世界市場の規模が 100~ 1,000億円程度あって、大企業では 20%以上、中堅・中小企業では 10%以上の世界シェアを保有している企業です。
 発表されたレポートには、企業財務データの 5年前との比較が掲載されており、 GNT企業はこの 5年間で従業員数を 9%増やし、売上高を 28%拡大させ、営業利益率を 11.0%から 11.4%へ改善させています。売上高と営業利益率を掛け算した営業利益では 32%増加させていることになります。同期間の上場主要製造業の集計ベースでは、売上高では 13%増、営業利益は 28%増、 2018年度の売上高営業利益率は 7.6%なので、 GNT企業が着実に成長を遂げ、利益率も高いことが分かります。
 GNT企業 100社の内 27社が上場企業(図表 (注 1)参照)ですが、株価の推移(単純平均)をみると 2014年 3月末を 100として、 9月 27日現在で 173となっています。 TOPIXが 126ですから 3倍近いパフォーマンスを上げたことになります(図表)。 2017年に大きく上昇、その後急落したという変動の大きさが気になりますが、 9月 27日の株価が 2014年 3月末を下回っているのは 6社のみ、 2社がほぼ横ばい、残りの 19社の株価は平均して約 2倍の上昇です。
 
 GNT企業は応募のあった企業から選定されたもので、 27社以外にもグローバルで高シェアな製品を有し、それが収益の牽引車となっている上場企業は数多くあります。今 2019年度下期の業績に不透明感が残る状況下、世界的な高シェア製品を有し、技術力、製品開発力、販売力など、グローバルな競争力を有している企業を評価し直すよい機会だと考えます。
( 2019年 9月 30日記 山中 信久)
 
(図表)グローバルニッチトップ企業の株価パフォーマンス

(注1)グローバルニッチトップ企業は以下の 27社
NITTOKU( 6145 JQS)、小森コーポレーション(6349 東1)、フロイント産業(6312 JQS)、アイダエンジニアリング(6118 東1)、ジェイテクト(6473 東1)、新東工業(6339 東1)、津田駒工業(6217 東1)、堀場製作所(6856 東1)、TOWA(6315 東1)、日本製鋼所(5631 東1)、東京鐵鋼(5445 東1)、日本パーカライジング(4095 東1)、フルヤ金属(7826 JQS)、大阪ソーダ(4046東1)、テイカ(4027東1)、東洋炭素(5310 東1)、扶桑化学工業(4368東1)、メック(4971 東1)、四国化成工業(4099 東1)、日本電子(6951 東1)、東京応化工業(4186 東1)、オプテックスグループ(6914 東1)、エスペック(6859 東1)、日立ハイテクノロジーズ(8036 東1)、小松マテーレ(3580 東1)、セーレン(3569 東1)、シマノ(7309 東1)
(注2)グローバルニッチトップ 27社の株価は2014年3月末を100とした単純平均。2019年9月は27日現在
 (出所 ) Astra Managerのデータをもとにいちよし経済研究所

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