成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2021年春号巻頭言
新市場区分が動き始めます

更新日 2021年04月12日

 例年になく早い桜の開花のニュースが全国から届いています。東京の千鳥ヶ淵の桜も、 3月 20日過ぎには見ごろを迎えましたが、人出は例年と比べると随分と減っていました。おかげで、ゆっくりと桜を見ることができましたが、桜も何となく寂しげな印象を受けました。
 
 さて、 4月も下旬になると 2020年度決算の発表が始まります。アナリストコンセンサスでは、東証 1部上場の主要企業で構成される TOPIX500(除く金融)の経常利益で、 2020年度が前年度比 8%減益、 2021年度が同 35%増益と予想されています。
コロナ禍の中、業務の見直し、生産性改善に取り組んだことから、企業の収益力は強化されているようです。新型コロナウイルスの第 4波の影響、アメリカテキサス州での大寒波、ルネサスエレクトロニクス那珂工場の火災による半導体の不足などの懸念要因はありますが、経費削減、生産性改善の元での景気回復により、 2021年度は大幅な増益が予想されます。
 
 企業業績の回復が予想される一方、個別企業では例年にない動きがありそうです。長年議論されていた東京証券取引所(以下取引所)の市場区分の見直しが、動き出し始めます。 6月 30日を新市場区分への移行基準日として、 7月 30日までには新市場での上場維持基準への適合状況が各上場企業へ通知され、各企業は 12月 30日までに所属する市場を選択して取引所へ申請することになります。取引所は、選択内容に基づき企業の所属する新市場を決定し 2022年 1月中に WEBサイトに掲載、 2022年 4月 4日から新市場へ移行します。
 なお、新市場区分の基準に適合しない企業も、適合に向けた計画書を提出すれば緩和した上場維持基準が適用されることになります。そのため、東証 1部上場企業は、新市場の上場基準を満たさなくても、最も注目度の高いプライム市場に留まることができます。
 この市場区分の見直しに伴い、取引所は TOPIX(東証株価指数 )等の株価指数の見直しを行います。流通時価総額が 100億円未満の銘柄は、その後の流通時価総額で修正をかけながら、四半期ごとに TOPIXの構成比率が逓減され、 2025年 1月末には除外をされます。 TOPIX構成銘柄は ETFなどを通じて多くの機関投資家に保有されており、 TOPIXからの除外は株価に一定の影響を与えると考えられます。
 
 この市場区分見直しを受けて企業ではいろいろな動きが出ています。東証 1部に上場している企業でもプライム市場の審査基準に適合しない企業が数多くあり、対応に動き始めています。
 新市場の定量的な上場審査基準は図表 1に掲載しました。この基準以外にも改訂されたコーポレートガバナンス・コード全原則への対応も求められます。
 まず、審査基準へのハードルとして流通株式数があります。流通株式数は、上場株式数から、 (a)10%以上所有の主要株主が所有する株式、 (b)役員等の所有株式、 (c)自己株式、 (d)国内の普通銀行、保険会社、事業法人が所有する株式等を除いたものです。プライム市場に適合するには、これが 2万単位以上、流通株式に基づいた時価総額(流通株式時価総額) 100憶円以上、さらにはガバナンスの基準として流通株式比率 35%以上を確保しなければなりません。
 このため、保有先に株式を売却してもらう、自己株式を売却するなどの動きが活発です。
また、経営成績の適合基準の 1つである 2期間の経常利益合計 25億円を中期経営計画に織り込む企業もあります。コーポレートガバナンス・コードへの対応では、項目の 1つである海外投資家比率を踏まえた英文情報の開示のための英文レポートを新たに発行する企業もあります。このほか、株価を意識して、 IRを強化、自己株式を取得する動きも出ています。
 図表 2には、現在の 4市場に上場する企業で、最も注目されるプライム市場の定量的な各上場審査基準を充足する企業数とその比率、定量的な審査基準 7項目をすべて満たす企業数とその割合を示しました。東証 1部上場企業でも、全審査基準を満たす企業は 6割弱に留まっています。特に、株式時価総額、流通時価総額で課題を残す企業が多いようです。
 
 政策保有株の売却による流通株式の増加、IRの強化など、投資家にとっては市場区分の見直しはメリットが多そうです。新年度は企業業績の回復度合いと相まって、新市場をにらんだ企業の動きに注目をしてみたいと思います。
(2021年3月31日記 山中 信久)
(図表 1)新市場の上場審査基準

(出所)東京証券取引所資料をもとにいちよし経済研究所

(図表 2)新市場の上場審査基準に対する充足状況

(注 1) 株主数、流通株式数は前期末現在。流通時価総額、株式時価総額は2021年2月末現在。
経営成績、財政状態は前期実績。
(注2)7項目充足は(1)から(7)の基準をすべて満たしている企業数。
(出所)Astra Managerのデータからいちよし経済研究所
 

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