成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2021年夏号巻頭言
コーポレートガバナンス・コードが改定されました

更新日 2021年07月09日

 鬱陶しい梅雨の季節となっています。株式市場でも 6月中旬以降は梅雨空のような展開となりました。アメリカ連邦準備理事会( FRB)の利上げ時期が早まるのではないかとの発言を受けて、 6月 18日にはニューヨーク市場が大幅に下落、翌週の 6月 21日には下げ幅を取り戻す上昇となりました。日本の株式市場も 6月第 4週は同様に乱高下しました。その後の FRBパウエル議長の発言で、金融緩和策が継続するとの安心感で市場は落ち着きを取り戻しています。ただ、アメリカの物価上昇率が予想を上回る状況となっており、当面はテーパリング(資産購入額段階的縮小)、利上げ時期に関するニュースに注意を要する相場展開が続きそうです。
 
 一方、株価を考えるうえで最も重要な企業業績は順調な回復を見せています。 2020年度の決算は、東証上場の主要企業から構成される TOPIX500(除く金融・ソフトバンクグループ、以下同じ)で前年度比 11%の経常減益となり、最も厳しい予想が発表された 11月の第 2四半期終了後の通期会社計画、クイック・コンセンサス予想を 10%以上も上回りました。コロナ禍による休業要請、時短などの影響を受けてサービス業、小売業などは大幅な減益でしたが、海外需要の回復により輸出が拡大に転じたことから製造業では経常増益です。 2020年度は、国内総生産( GDP)、企業収益と連動性の高い鉱工業生産指数が大きく落ち込んだのに対して、上場企業の企業業績は軽微な減益に留まっています。
 これは、コロナ禍による営業活動の自粛、イベントの中止、出張取り止めなどにより販売管理費が減少したことに加え、テレワークの推進やネットの活用などの種々の業務見直しなどが奏功し、生産性が向上したことが寄与していると考えられます。
 今 2021年度は、これらの経費見直し、生産性向上の上に需要の回復が見込まれることで大幅な企業業績の拡大が予想されます。 TOPIX500採用企業の会社計画は前年度比 31%経常増益、クイック・コンセンサス予想では同 36%経常増益となっており、直近のピーク利益であった 2018年度に対して各々 94%、 98%水準まで回復する見通しです。
 ただし、 K字型回復といわれているように、業界によって明暗が分かれます。景気回復と DX(デジタル・トランスフォーメンション)の進展により世界的な供給不足となっている半導体関連は前期に続き業績拡大が見込まれます。対して、コロナ禍で営業自粛が求められている外食業界などは回復するものの厳しい業績を余儀なくされそうです。
 しかし、同じ外食業界の中でも、ハンバーガー・チェーンのようにテイクアウト需要を取り込み月次売上が前年同月比プラスを続けている業態と、酒類提供時間の短縮の影響を受け売上を大きく落としている居酒屋業態があります。さらに、同じ業態の中にあっても、ラーメン・チェーンでは駅前・繁華街立地が多い企業は苦戦、郊外・ロードサイド立地が中心の企業は月次売上を伸ばしています。 2021年の投資を考えるにあたっては、業界、業態だけでなく、企業を細かく見ていくことが重要になります。
 
 企業を細かく見るという観点からは、 6月 11日に金融庁と東京証券取引所が発表した、改定された「コーポレートガバナンス・コード」と「投資家と企業の対話ガイドライン」も注目されます。前者は 2018年に次ぐ 2回目の改定で、改定内容は金融庁と東京証券取引所のホームページに整理されています。
 大きな変更としては、来年 4月からスタートする新市場区分で、「優良な企業が集まる」プライム市場に上場する企業は独立社外取締役を 3分の 1以上選任すること、知識、経験、能力という取締役会が備えるべきスキルと各取締役のスキルとの対応関係(スキル・マトリックス)の公表が求められていることでしょうか。
 また、改定されたコーポレートガバナンス・コードでは、「適切な情報開示と透明性の確保」の中で、「経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取り組みを適切に開示」すべきであり、「人的投資や知的財産への投資などについても自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである」という項目が加わっています。特に、プライム市場の上場企業には、「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響」ついても開示の充実を進めるべきとされています。
 このような企業のコーポレートガバナンスへの取り組みは、各社のホームページ、有価証券報告書や統合報告書などに開示されており、ネット上で簡単にアクセスすることができます。図表には、コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示を行っている上場企業数の推移を示しました。開示企業数は増加を続けており、 2020年度で既に 2,800社強、全上場企業の 75%に達しています。また、投資家へのディスクロージャーポリシーを作成・公表している企業も着実に増えています。 2015年度には作成・公表企業は 1,100社強、全上場企業の 31%でしたが、 2020年度には 1,700社弱、 44%にまで増えました。
 
 コロナ禍を経験して、企業の危機への対応力がみえ、それが企業業績の差に明確に現れる局面になっています。また、企業のコーポレートガバナンスへの取り組み、投資家への情報開示など、ここ数年で格段の進歩見せています。書かれていることと実際に行われているかについては差があることも多いと感じますが、投資にあたって手間をかけてこれらの情報を今まで以上にみていくことが求められているのではないでしょうか。
( 2021年 6月 30日記 山中 信久)

(図表)コーポレートガバナンス・コードとディスクロージャーポリシーに関する開示・公表企業の推移

(注)対象は全上場企業
(出所)Astra Managerのデータよりいちよし経済研究所作成

ご留意いただきたい事項

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