成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2021年秋号巻頭言
31年で株式市場は大きく変わりました

更新日 2021年10月08日

 先月9月14日に日経平均株価は30,670円へ上昇し、31年前の1990年8月(1日30,837円)の水準まで回復しました。マーケット全体を表す東証株価指数(TOIPX)も同日に 2,118となり、1990年8月(3日2,174)の水準まで戻りました。
 そこで、31年前と足元の株式市場を比べてみました。データ取扱量の問題もあり、比較は東京証券取引所1部に限定していますが、規模、バリュエーション、上場企業の構成が大きく変わっていることを再認識しました。
 図表1に示したように、1990年7月末の上場企業数は、1,100社強、時価総額は470兆円弱、今年8月末と比較すると5割、6割の水準です。PERは50倍弱、PBRは3倍以上でした。PERは製造業平均でも40倍、銀行は60倍近くまで買われていました。グリーンスパン元アメリカ連邦準備理事会(FRB)議長は、「バブルは崩壊した後初めてバブルとわかる」と言いましたが、今から思えばまさにその通りでした。
 その時の時価総額上位10社を見ると、1位は日本電信電話(NTT)、2位が日本興業銀行、3位がトヨタ自動車です。上位10社の内、合併前の都市銀行が7社も入っていました。直近(9月24日)では1位はトヨタ自動車、2位がキーエンス、3位が NTTで、三菱 UFJフィナンシャルグループが7位に顔を出しますが、10位に入るのは金融でとらえてもこの1社のみです。
 東証33分類で見た業種構成でも、1990年7月では銀行が21%を占め、2位の電気機器の11%を大きく上回っていましたが、直近では4%まで構成比を落としています。直近で最も業種構成比が大きいのは電気機器で17%、2位が情報・通信で11%(1990年7月4%)、3位がサービスで7%(同1%)、4位は小売6%(同4%)です。カッコ内に示した1990年7月末と比較して、大きく構成比を上げています。
 
 図表2にはこの31年間の株価上昇率上位20社を掲載しました。1位は家具・インテリア店全国展開するニトリホールディングスです(1990年はニトリ)。直近の株価は1990年7月比で66倍となりました。2位はキーエンスで41倍、3位がHOYAで25倍です。
 ニトリの1990年7月の時価総額は250億円弱、札幌証券取引所に上場する中小型株でした。シリコンウエハの切断・研削・研磨措置で世界トップのディスコの時価総額は860億円、哺乳瓶を始めとする育児用品で国内首位のピジョン、「サロンパス」などの消炎鎮痛剤(ハップ剤)で国内トップの久光製薬も、当時の時価総額は1,000億円以下で中小型株に属します。ディスコ、ピジョンは当時の店頭登録銘柄でした。
 これらの中小型株の企業に共通して言えることは、継続的に成長を続けていることです。連続増収、連続増益記録で必ず名前の挙がるニトリのこの間の年平均増収率は14%、経常利益の年平均成長率は18%です。大きな循環を繰り返す半導体業界の影響を受けるディスコも年平均成長率は売上高で8%、経常利益で12%でした。ピジョンも何回かの減収、減益を繰り返しながら5%、11%の成長率となっています。
 これらの企業はまた高利益率、高ROEでもあります。ニトリの直近5年の売上高経常利益率平均は17%、ROEは15%、ディスコは各々28%、15%、ピジョンは各々18%、21%で、2010年以降で顕著に上昇しています。
 足元の株式市場は、中国・恒大集団の債務問題の拡大懸念、欧州、アメリカでの金融緩和縮小(テーパリング)、利上げ見通しなどから、9月後半は調整しています。
 しかし、2021年度第1四半期の東証1部上場企業(除く金融、ソフトバンクグループ)の経常利益合計額は前年同期比3.2倍、コロナ禍前の2019年第1四半期を26%上回りました。通期の会社計画の見通しも5月時点から上方修正され、会社計画で前期比36%の経常増益です。図表1に示したように、売上高経常利益率、ROEなどの収益力、自己資本比率の財務体質も大きく改善しています。
 業種によって、同じ業種でも業態によって、さらには同じ業態でも取り組みによって企業の収益力格差が明確になってきています。第2のニトリ、ディスコを見つけるのは至難の業ではありますが、変化を捉えて投資を考えることが重要だといまさらながらに思います。
(2021年9月29日記 山中 信久)
(図表 1)1990年と2021年の東証1部上場企業の主要指標

(注 1)上場企業数、時価総額は月末、2021年9月は8月末現在。PER、PBRは9月24日現在
(注 2)PERの1990年7月は1990年度実績基準、2021年9月は日経予想基準。PBRはともに実績基準
(注 3)2021年9月のROEは配当性向からの試算値。自己資本比率は2020年度実績
(出所)東京証券取引所統計データ、Astra Managerのデータよりいちよし経済研究所

(図表 2)1990年7月末から2021年9月の株価上昇率上位20社

(注)株価上昇率は1990年7月31日から2021年9月24日
(出所) Astra Managerからいちよし経済研究所

ご留意いただきたい事項

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