成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2022年夏号巻頭言
こんな時には「グローバルニッチトップ企業」

更新日 2022年07月08日

 関東甲信越では6月27日に観測史上で最も早く、しかも最短で梅雨が明けました。6月25日には群馬県伊勢崎市で6月としては国内で初めて40度超えを観測、猛暑がやってきました。一方、株式市場は今一つパッとしない梅雨空のような相場となっています。要因は、アメリカの5月の消費者物価指数が第二次オイルショック以来の40年ぶりの上昇となり、これを受けて6月に開かれたFOMC(連邦公開市場委員会)が大幅な利上げを実施、7月以降もさらなる利上げが予想されることから、アメリカ経済の減速観測が強まってきたことが第一に挙げられます。加えて、中国では「ゼロコロナ」政策のもとに都市封鎖(ロックダウン)が行われたことなどもあり、回復の兆しはあるものの経済が停滞しています。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻が拍車を掛けた世界的な穀物、資源価格高騰による需要の落ち込み懸念が世界景気に影を落としています。
 
 一方、日本の上場企業の収益は足元では堅調に推移しているようです。東証プライム市場上場の主要企業で構成される TOPIX500(除く金融)の2021年度経常利益合計は前年度比36%増益となり、コロナ禍前の2018年度ピーク経常利益を20%上回りました。2022年度は会社計画では前年度比2.6%経常増益ですが、為替前提が120円弱となっており、足元の円安を考慮すると上振れの可能性が高いと考えます。アナリスト予想では、2022年度は前年度比10%弱の経常増益予想です。投資損益によって利益が大きく振れるソフトバンクグループを除くと前期比約5%の経常増益ですが、マクロ環境を考慮すると堅調な企業業績が見込まれていると言えます。
 2022年度を業種別にみると、原材料の上昇によるコストアップから素材産業や、資源高により前年度に利益を大きく伸ばした総合商社などは減益予想です。コロナ禍による制限が解除されたことから鉄道各社や空運2社では黒字転換が予想されます。需給ひっ迫が続く半導体関連は業績続伸、生産調整を余儀なくされた自動車も挽回生産と円安を反映し増益予想です。ただ、金融関連などを除く東京証券取引所29分類の内、前年度比増益業種が20、同減益業種が9とばらつきが大きくなっています。
 
 梅雨空の株式市場、企業業績のばらつきなどを考えると、「グローバルニッチトップ(以下GNT)企業」に再度注目するも投資アイデアの一つと考えています。GNT企業とは、市場規模は世界的にも小さいものの、その市場で国際競争力を有しトップシェアを誇っている企業です。経済産業省は、2013年度に「グローバルニッチトップ企業100選」を発表しましたが、一昨年2020年に新たに2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」として113社を公表しました。審査に当たっては、(1)世界シェアと利益の両立、(2)技術の独自性と自立性、(3)サプライチェーン上の重要性等に着目して選定したとしています。上場しているのは45社で、いちよし経済研究所が継続調査する中小型株が多いのも特色です。
 いくつかの企業を挙げると、半導体フォトマスク欠陥検査装置のレーザーテック(6920)、有機ELを光らせる燐光材料のイリジウム化合物のフルヤ金属(7826)、アルミ電解コンデンサー用セパレータのニッポン高度紙工業(3891)、白内障の治療用などに用いられる眼科ナイフのマニー(7730)などがあります。
GNT企業の選定に当たっては利益も重視されているので、収益力もありGNT製品のウェイトが小さい2社を除いた上場43社の売上高営業利益率は10年間平均で10%強と東証プライム市場上場の製造業平均を3%近く上回っています。また、これらのGNT企業のROIC(Return on Invested Capital)も図表1に示したように上場製造業平均を上回って推移しています。ROICは投下した資本に対してどれだけのリターンを得ることが出来たかを見る指標で、特に製造業では資金調達をし、製造設備を購入、それを用いて製品を製造、流通網を整備して初めて収益を得ることが出来ます。この一連の投資の結果がROICです。ROICが負債コストと株主資本コストを加重平均した資本コスト(WACC)を下回っていると企業価値が毀損することになります。図表1に示したように、GNT企業のROICは、2020年度はコロナ禍による需要減で大きく落ち込んだものの2021年度は7%台を回復しています。東証プライム市場に上場する製造業の平均WACCは4~5%と試算されますのでそれを上回り、GNT企業の企業価値は拡大が可能です。
 これらのGNT企業の平均株価も図表2.に示したようにTOPIXを大きく上回っています。しばらく梅雨空模様の中、国際競争力があり、確実に成長を遂げられるGNT企業を投資対象として考え、本格的な梅雨明け相場を待ちたいと思います。
(2022年6月29日記 山中 信久)

図表 1.グローバルニッチトップ企業のROIC

(注)ROICは{支払利息+経常利益×(1-税率)}÷(期中平均自己資本+同有利子負債)として計算。
グローバルニッチトップ、東証プライム市場上場製造業ともに単純平均(決算期変更企業などを除く)。
(出所)Astra Managerデータからいちよし経済研究所作成

図表 2.グローバルニッチトップ企業の株価推移


(出所) Astra Managerデータからいちよし経済研究所作成(2022年6月は28日まで)

ご留意いただきたい事項

  • この資料は情報提供を目的として作成されたものです。投資勧誘を目的としたものではありません。そのため証券取引所や証券金融会社が発表する信用取引に関する規制措置等については記載しておりません。
  • この資料は信頼しうるデータ等に基づいて作成されたものですが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、将来の株価等を示唆・保証するものでもありません。
  • 記載された内容・見解等はすべて作成時点でのものであり、予告なく変更されることがあります。
  • 有価証券の価格は売買の需給関係のみならず、政治・経済環境や為替水準の変化、発行者の信用状況の変化、大規模災害の発生による市場の混乱等により、変動します。そのため有価証券投資によって損失を被ることがあります。商品や銘柄の選択および投資の時期等の決定は、お客様ご自身でなさるようお願いいたします。
HOME
PAGE TOP