成長産業・企業の展望MARKET OVERVIEW

2024年新春号巻頭言
ピーク利益は更新したけれど・・

更新日 2024年01月10日
  
 新年明けましておめでとうございます。今年の干支は「甲辰(きのえ・たつ)」、「甲」は十干の最初で草木の種子が成長の時を待つ状態を意味し、「辰」は十二支の5番目で草木が成長し形が整っていく様子を表していると言われています。今年「甲辰」は新しい成長に向けて形が整っていく、変化をしていく年と言うこともできそうです。
 変化という観点では、2024年はアメリカ大統領選挙(11月)、ロシア大統領選挙(3月)、台湾総統選挙(1月)、日本では自由民主党の総裁選挙(秋)などがあります。ロシアのウクライナ侵攻の長期化、パレスチナの動向も気になります。
 金融では、アメリカ・ FRB(連邦準備理事会)がいつ利下げに踏み切るのか、日本では日銀がいつ長短金利操作(YCC)、マイナス金利を解除するのか、それに伴って為替レートがどのように動くのかも注視すべき点になります。
 
 一方、株価を考える上で最も重要な企業業績はしっかりとしています。2023年度第2四半期決算を踏まえたTOPIX500(除く金融、ソフトバンクグループ、以下TOPIX500)の企業業績は、会社計画で前年度比6%の経常増益、アナリストコンセンサスでは同9%経常増益です。第1四半期発表時に対して、会社計画では8pts.、アナリストコンセンサスでは3pts.の上方修正です。5月の2022年度決算発表時から2回続けての上方修正となりました。為替前提は、会社計画の最頻値で円ドル140円、円ユーロ150円です。足元は若干の円高に振れていますが、まだ会社前提よりは円安で収益へのプラス効果が残っています。
 増益の内容をみると、生産が回復、円安の恩恵を享受した自動車業界、料金の引き上げとエネルギー価格下落が寄与している電力・ガス業界が全体をけん引しています。この2業界の経常利益増加額の合計はTOPIX500の増益額合計の180%になります。逆に言うと大幅な減益業種もあるということで、海運市況が下落に転じた海運業界、資源価格のピークアウトの影響を受けた総合商社などは大幅な減益予想となっています。東証33業種分類から金融関連を除いた29業種では、会社計画、アナリスト予想ともに17業種が経常増益予想、12業種が経常減益予想です。
 個別企業で見ても、会社計画では2/3が経常増益、1/3は経常減益となっています。業種、企業によって、いつにも増してばらつきの多い業績見通しです。企業ごとに増益要因は異なりますが、アナリストのコメントを聞いていると、(1)新型コロナウイルスによる行動制限の解除にともなう人流回復、リオープン需要をうまく取り込めた、(2)原材料価格、人件費の上昇を価格転嫁できた、(3)中国、ヨーロッパの景気減速にともなう需要減を他地域、別製品で吸収できたなどが、その要因として挙がってきます。
 特に、目立ったのが値上げ効果です。食品関連、外食チェーン業界では、一昨年来数回にわたる値上げを実施、原材料費、人件費の上昇を転嫁し、利益率を改善させています。外食チェーンの多くでは、値上げをしても客足が落ちていません。日本企業は製品・商品の値上げへの抵抗感が強く、原材料の上昇に対してはコスト削減、商品の内容量削減というステルス値上げなどで対応してきました。しかし、今回の原材料価格上昇に対しては製品・商品価格の値上げを行い、それが可能ということが認識されたのは大きな変化です。 IT業界でも、新型コロナ収束後の人件費上昇に直面し、受注単価を引き上げ、発注者側もそれを受け入れる例が増えています。日本企業のコストと製品・商品価格に対する考え方が大きく変わったといえます。
 ただし、すべての上場企業が状況に対応できているわけではありません。前述したように1/3の企業は今2023年度の経常利益計画が減益となっています。足元で起きている変化に対応できる企業とそうでない企業の格差は、今後ますます広がっていくと考えられます。冒頭に述べたように大きな変化を予感させるイベントが目白押しの年でもあります。株式投資の観点からは、新しい年は変化に対応し成長が可能な企業への選別がより重要になると考えます。
 
 そこで、以下のようなスクリーニングを行ってみました。過去10年間のピーク経常利益を今2023年度に更新が計画されているにもかかわらず、株価が直近10年の高値を更新していない企業です。ピーク利益更新は事業環境の変化に対応できているということであり、高値未更新は株式市場がそれを認識していない可能性があります。
 プライム、スタンダード、グロースの3市場に上場して、直近10年の経常利益が継続して取得可能、2014年1月段階で上場している企業は2,900社弱あり、直近10年間の最高益更新が予想される企業はその1/4、約760社、その内、2014年1月以降の株価最高値を更新していない企業が16%、460社強ありました(図表)。
 株価が最高値を更新できていないのは、過去の株価が業績を反映したものではなかった、成長期待が低下している、財務体質が悪化しているなど、いろいろな理由が考えられます。460社強の中には、実績1株当たり純資産(BPS)が赤字の企業も40社弱ありました。
 しかし、この財務体質悪化企業を除くと、実績 ROEは平均で12%強、2023年度予想基準で株価収益率(PER)は14倍、配当利回りは2.3%で、投資魅力は十分にあるように思います。
 甲辰は成長に向けて形を整え、変化をしていく年ととらえられます。事業環境に対応することで過去の最高益を更新できる企業、しかし、株価はそれをまだ認識していないとみられる企業を見つけることもパフォーマンスに寄与すると考えます。
(2023年12月20日記 山中 信久)
 
(図表)市場別にみたピーク利益更新、最高値未更新企業
(注1)対象企業は2013年度以降の経常利益が継続的に計測可能で、2014年1月時点で上場している企業
(注2)ピーク経常利益更新は、今期会社計画の経常利益が2013年度以降の最高経常利益を更新した企業  
会社計画未公表は日経予想で補完  
  高値未更新は、2014年1月から2023年3月の間の最高値を2023年4月以降で未更新の企業
  経常利益予想、株価はいずれも 2023年12月15日現在
(注3)構成比は対象企業に対する比率
(出所)Astra Managerのデータからいちよし経済研究所

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